最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1774号 決定 1956年7月03日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人吉野作馬の上告趣意第一点について。
所論は結局原判決が控訴趣意第一、四点について示した判断に理由不備ないし審理不尽の違法がある旨を主張するに帰し、刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。のみならず、第一審判決挙示の証拠、その他一件記録に徴してみても、判示物件の所有者において被告人が右物件を処分することにつき、承諾を与えた事実はもとより、被告人がその処分につき所有者の承諾を得たものと信じて居たという事実も認められないから、被告人において承諾があったものと誤信したこと、乃至拒否されたものとは解しなかったことにつき、被告人に過失があったか否かを論ずるまでもなく、所論はその立論の前提を欠き、採用できない。原判決のこの点に関する判断には稍精確を欠く嫌があるけれども、論旨を理由がないとしたことは結局において正当である。
同第二点について。
所論は、原判決が控訴趣意第一、四点について示した判断が独断にすぎず、証拠に基ずかないでした違法な判断であるというのであるから、刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。のみならず原判決がこの点につき示した論旨指摘の判断は相当であって、所論の如き違法はない。
同第三点について。
所論は、原判決が控訴趣意第二、三点について示した判断に証拠法違反、乃至理由不備、審理不尽の違法があるというのであるから、刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。勿諭原判示大和炭坑構内に判示会社において採炭運搬のため据えつけた、同会社の所有管理にかかる本件ドラグライン一基につき、何等管理処分権なき被告人が他人と売買契約を締結しても、ただそれだけの事実に止まるならば、所論の如く、被告人に窃盗罪の成立を認めることはできないけれども、第一審判決挙示の証拠によれば、被告人は原判示の如く九月一一日頃屑鉄類を取扱っているその情を知らない湯元文次に、自己に処分権がある如く装い、屑鉄として、解体運搬費等を差引いた価額、即ち、買主において解体の上これを引き取る約定で売却し、その翌日頃右湯元は情を知らない古鉄回収業坂口正明に右物件を前同様古鉄として売却し、同人において、その翌日頃から数日を要して、ガス切断等の方法により、解体の上順次搬出したものであることが明らかであるから、右解体搬出された物件につき被告人は窃盗罪の刑事責任を免れることはできないものというべく、第一審判決の事実摘示も、原判決の判示も、結局、右と同趣旨に帰着する以上、所論は結局において、その理由がないといわなければならない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)